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-------------------------------------------------- ◆ 砂時計~反転輪廻~ --------------------------------------------------  カチッ、カチッカチッ  暗い部屋の中、ディスプレイの光だけが彼の顔を照らし出している。 パソコンのディスプレイには、インターネット掲示板の画面が表示されている。  ディスプレイの光に照らされた彼の顔は醜いものだった。 髭は生えっぱなし、頬はこけ、目の下にはクマが出来ていた。  何日も外に出ず、彼は一日の殆どをパソコンの前で過ごしている。 家族と暮らしてはいるが、部屋に篭りっきりの彼にとっては一人暮らしとかわらない。  「ったく、こいつら失敗作ばっかだな…」  口をいやらしく曲げ、あざ笑う。  常に上目線から物を言いながら、インターネット上の相手をあざ笑う。 これが、彼のライフスタイルだった。毎日インターネット上で人を馬鹿にする。 インターネット上の人物相手に怖いものなんてない。言うだけ言ってやればいいのだ。 彼にとって自分が優越感に浸るには、これしかなかった。  いわゆる、社会不適応者だ。外に出れば、人とまともな会話も出来ず、働く意欲も無い。 自分が外に出て優越感に浸れることは無い。家から外に出れば、そこは彼にとって四面楚歌と同じ。 敵に囲まれているようなものなのだ。 『働け』と言ってくる両親も彼にとっては敵だった。自分の味方は自分だけ…。  パソコンの冷却ファンが唸りを上げる。過負荷が掛かっているのだろうか。 ディスプレイに映し出されたマウスカーソルが砂時計のマークへと変わる。  「ちっ、またかよ…」  苛立ちを隠さずに言う。  椅子の背に体重を掛ける。いい所で、PCが動きを止めた。 彼にとって、これほど苛立つことはない。 今の自分にとってたった一つの娯楽を与えてくれるパソコンが動かないのだから。  「おいおい、早く動けよ…こんなところで止まるんじゃねぇよ…」  苛立ちが限界に来たのだろうか、彼はパソコンを殴り始める。 優越感に浸っていないと不安で仕方がない…。不安を味わうのが怖い…。  「止まるんじゃねぇって言ってんだよ」  声の音量が自然と上がる。  彼の部屋のドアに近づいてくる足音がする。ドア越しに声が聞こえてきた。  「どうしたの?あまり大きい声を出さないでね、お願い…」  母親が彼に呼びかける。 昔はあんなに勉強しろと言っていた母親も最近はめっきりそんなことも言わなくなった。 いつも下手に出ては笑顔で媚を売る。それが、彼は嫌いだった。  「うるせぇんだよっ、早くどっかいけよババァ」  さらに声を張り上げて叫ぶ。  すると、返ってきたのは別の声だった。  「おい!なんて口の利き方だ!早く謝れ!そんな風に育てた憶えは無いぞ」  (ったく、またあのクソ親父かよ…うぜぇなぁ、今日こそ言い返してやる)  「黙れよ!お前に育てられた記憶なんてこれっぽちもねぇんだよ!」  そう言いながら、彼は空のペットボトルをドアへ投げつけた。  これまでのような返事は返ってこなかった。何か小声で呟いている。  「あいつは、とんだ失敗作だよ母さん。親のありがたみがなんもわかっちゃいない。もう、知らん」  「あなた、お願いだからそんなこと言わないで…、あの子ならまだ立ち直れるわ」  「いつまで経っても働かずに引き篭もっている奴がどうやったら直るって言うんだ」  小声で呟いていようとドア越しに聞こえてきた。  (なんだってんだよ、そうだよ、俺は所詮失敗作なんだよ…)  苛立ちが止まらない。視線をディスプレイに戻す。 ディスプレイには、先ほどと変わらぬままの画面が映し出されていた。 マウスカーソルも砂時計を表示させたままだ。  (あいつらが悪いくせに、何度も何度も俺が悪いかのように文句ばかり言ってきやがって…)  部屋が臭い…もう、何年も掃除していない。足の踏み場もないほどのごみの量…  パソコンも埃をかぶり、寿命が尽きようとしている。  (ババァに頼んでみるしかないか…)  久しぶりにリビングへと顔を出してみると母親がなにやら一人でぶつぶつと喋っていた。  「失敗作だなんて…、私の責任だわ…。一緒に…」  (なにぶつぶつ言ってんだ?まぁ、いいや聞いてみるか)  「なぁ、パソコンが潰れたから新しいの買ってくんない?」  「あら、ごめんね…。お母さん、もう我慢できないわ…。」  母親の眼に涙が溢れてくる。  「あ?何泣いてんの?」  (なんだこいつ、俺の言ったこと理解出来てんのか?)  母親は無言で眼に涙を溜めながらこちらへと近づいてくる。  「なんなんだよ、気味わりぃな…」  今まで母親のこんな姿を見たことが無かった。いつでも、下手に出て俺に媚うって…。いつも笑顔で…。  「ねぇ、死にましょ?」 ──ザク…  (え?何?)  「ゴフォェ…」  「失敗作だもの…作り直さないとね…」  「ちょ…何言ってんだ…よ…」  口から熱いものがこみ上げてくる…。腹の辺りが熱い…。  「失敗作は壊さないと…でしょ?」  (あ、そっか…。普通そうだよな…)  立っていられない…視界が段々暗くなってきた…。  「失敗作は一度死なないと生まれ変われないもの…」  彼の命が消える間際に見えたのは、涙を流しながらもいつものように笑っている母親の嫌いな顔だった。 終 ──死と生が繰り返すという輪廻転生 ──砂時計もまた、天地を反転させることによって時を刻む ──時を刻んでいる間が生ならば、刻み終えたときは死。 ──それを反転させ、生を刻み死を迎える輪廻。それをひたすら繰り返す。  砂時計の砂の一粒一粒が、私達人間が生きている間に行う選択肢や体験・運命の数ではないか? 時を刻み終え、死を迎えた砂時計を反転させ、生(時)をスタートさせる。 その時、下に落ちていく砂が反転させる前と同じ順番で落ちていくとは限らない。 それが、人と人の違いではないか。砂時計を反転させた瞬間に運命は決まっているのかもしれない。  勝手な考察だが私はそう思っている。 ──時を刻み終えても砂時計は反転輪廻を繰り返す。 完