-------------------------------------------------- ■ 無線機 上 -------------------------------------------------- 「ジジジ……」 机に置かれている古ぼけた無線機から聞こえるノイズの音。死んだ親父が唯一俺に遺していってくれたもの……。 毎日仕事詰めの中、小さい頃の俺に無線の凄さや喜びを説いてくれたけど、俺にはそれが理解できなかった。 親父が死んで10年近くの月日が経つ、それでも何故か、俺は机の上からこの無線機を動かすことは無かった。 使い方だけは、未だに覚えている。なのに、親父が生きていた頃も死んでからも一度も操作したことは無かった。 この無線機も送受信できるはずが、いつのまにか受信しか出来ないようになっていた。 受信周波数も親父が死んでから一度も変えていない……。 ──ただ、電源だけはいつもつけていた。 もしかしたら、いつの日か、何か聞こえるかもしれないから…。 ……… …… … 今日も無線機からは、微かにノイズの音が聞こえる。 耳を澄ましてやっと聞こえる程度の音量。いつもと変わらない音。 しかし、今日はいつもと変わった音がした。 「た………すけ…て…」 タスケテ…たすけて…助けて…と。 ただ、ひたすらノイズ雑じりに聞こえる音。いや声?そう、この音は声。 「し……に…たく……ない…」 苦しさが伝わってくる。この声の人は一体何に苦しんでいるんだろう。 「お……やじ…」 オヤジ…親父…おやじ…。お父さん、父親。 たった一人の肉親だった。たった二人だけの家族だった。 でも、今はもうこの世に居ない。俺以外の誰にも看取られることも無く、この世から去っていった親父。 無線機からは、絶え間なく苦しみの声が聞こえる。 「ご…めん…な…さい…」 ごめんなさい。何に謝っているのだろうか。 親父の大好きだった無線機。最後の最後まで俺は理解できずにいた。 謝りたい…ただ、ひたすら謝りたい。 「ジジ…」 もう、無線機からは何の音(声)も聞こえなくなっていた。 ……… …… … ──俺はもう、死んでいる。 無線機から聞こえた声は、俺の声だった。 終 NEXT